【高次脳機能障害シリーズ】観念失行とは?
2026/06/22
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害24
歯磨きや道具の使い方が分からない?観念失行と生活の困りごと
はじめに

「歯ブラシを持っているのに、歯磨きが始まらない」
「箸やスプーンを持っても、使い方がぎこちない」
「コップ、くし、リモコン、スマホ充電器の使い方で止まってしまう」
脳卒中などのあと、このような生活場面の変化に気づくことがあります。
ご家族から見ると、「道具の使い方を忘れたのかな」「認知症が進んだのかな」「何度教えても分からない」と感じるかもしれません。
道具を使うことは、日常生活の中で何度も出てきます。
歯磨き、食事、整容、家事、テレビ操作、スマホの充電。
どれも小さな動作に見えますが、実は複雑な手順が含まれています。
このような道具の使い方や手順の混乱に、観念失行が関係している場合があります。
観念失行とは?
観念失行とは、道具の使い方や一連の手順がうまく組み立てられなくなる状態です。
道具そのものが見えていないわけではありません。
手も動いている。道具の名前や目的が何となく分かっているように見えることもあります。
それでも、「どの道具をどう使うか」「どの順番で使うか」「次に何をすればよいか」がうまくつながらなくなります。
たとえば、歯磨きであれば、歯ブラシを取る→歯磨き粉をつける→歯ブラシを口に運ぶ→歯を磨く→口をゆすぐという流れがあります。観念失行では、この一連の流れのどこかで止まったり、順番が混乱したり、道具の使い方が違ってしまったりします。
【Note】「物品」と「その使い方」の繋がりが曖昧になる
簡単に説明すると、
と考えると分かりやすいかもしれません。
例えば、歯ブラシを見れば「歯ブラシだ」と分かる。
コップを見れば「コップだ」と分かる。
しかし、その次の 「歯ブラシで歯を磨く動かし方」 「コップで水を飲むときの動かし方」 「リモコンでテレビを操作する方法」 といった使い方や手順がうまく結びつかなくなることがあります。
そのため、ご本人は物を見ていないわけでも、忘れてしまったわけでもないのに、使い方が分からなくなったように見えることがあります。
作業療法の視点では、「道具の名前を知っているか」だけではなく、「その道具を使った行為が組み立てられるか」を見ることが大切になります。

歯磨きで見られる困りごと
観念失行は、歯磨きの場面で気づかれることがあります。
たとえば、
- 歯ブラシを手に持ったまま止まる
- 歯磨き粉をつけずに磨こうとする
- 歯磨き粉を違う場所につけようとする
- 歯ブラシを口に運べない
- 口をゆすぐ手順が抜ける
- コップの使い方で止まる
といった様子です。
ご家族はつい「歯ブラシなんだから、磨けばいいでしょ」と思ってしまうかもしれません。
しかし、ご本人の中では、歯ブラシ・歯磨き粉・コップ・水・口をゆすぐ手順がうまくつながっていない状態です。

箸やスプーンが使いにくくなることもあります
食事場面でも、道具の使い方で困ることがあります。
- 箸を持っても食べ物をつかめない
- スプーンをどう口へ運ぶか迷う
- 食べ物と道具の関係が分かりにくい
- コップを持っても飲む動作につながらない
- 食事の途中で手順が止まる
ただし、箸が使いにくい原因は観念失行だけではありません。
麻痺・手指の不器用さ・感覚障害・注意障害・視野の問題などが関係することもあります。
そのため、生活場面だけで「観念失行」と決めつけず、何が難しさにつながっているのかを整理することが大切です。
リモコンやスマホ充電など、現代の生活道具でも起こります
観念失行は、現代の生活道具でも困りごとにつながります。
たとえば、
テレビのリモコン操作ができない
- 電気ポットの使い方で止まる
- 電子レンジの手順が分からない
- スマホを充電できない
- 自動販売機の操作が分からない
- 電話をかける手順が混乱する
といった場面です。
家族から見ると「前は使えていたのに」「何度教えても覚えない」と感じるかもしれません。
しかし、単に記憶の問題だけでなく、道具を使うための手順や関係性が組み立てにくくなっていることがあるのです。
なお、こうした家電やスマホ操作の困りごとは、記憶障害や注意障害が関係していることもあります。
何が原因なのかを生活場面の中で整理することが大切です。
手順が飛ぶ、順番が混乱する
観念失行では、道具そのものの使い方だけでなく、複数の手順を順番に行うことも難しくなります。
たとえば、
- 歯磨き粉をつける前に水でゆすぐ
- 食事の途中で次に何をするか止まる
- お茶を入れる手順の途中が抜ける
- 電子レンジに入れたあとボタン操作で止まる
- 服薬の準備で順番が混乱する
といった場面です。
本人はふざけているわけではなく、手順が頭の中でつながりにくくなっています。
家族ができる工夫
観念失行がある場合は、道具の使い方を言葉だけで説明するより、実際に分かりやすく整えることが基本です。
使う道具を減らす
たくさんの道具が目の前にあると、どれを使えばよいか混乱しやすくなります。
歯磨きなら歯ブラシ・歯磨き粉・コップだけにする。食事なら必要な箸やスプーンだけを置く。
まずは、迷うものを減らすことです。
実物を提示する
「歯磨きして」と言葉で言うだけではなく、歯ブラシを見える場所に置く。
「お茶を飲んで」ではなく、コップを手に取りやすい位置に置く。
実物がヒントになります。
手順を単純にする
複雑な手順は混乱しやすくなります。
たとえば、電子レンジやリモコンは、よく使うボタンに目印をつける。
スマホ充電器は、差し込む場所が分かりやすいように置き場所を固定する。
毎回同じ方法にすることで、動作が安定しやすくなります。
途中で止まったところを見る
「できない」と全体で見るのではなく、「どこで止まっているのか」を観察することが大切です。道具を選ぶところで止まるのか、使い始めるところで止まるのか、途中の順番で止まるのか、最後の片付けで止まるのか。
止まりやすい場所が分かると、支援の方法も考えやすくなります。
道具が使えないことを責めないために
道具が使えない様子を見ると、ご家族は不安になります。
「このまま何もできなくなるのでは」「認知症が進んだのでは」「何度教えてもできない」と感じることもあると思います。
でも、ご本人も困っています。
今まで当たり前にできていたことが、急にうまくいかない。
自分でも理由が分からない。
その不安や戸惑いが、怒りや拒否として見えることもあります。
「どうしてできないの?」ではなく、「どこが難しいのか」「何があると分かりやすいのか」を一緒に探すことが大切です。

まとめ
観念失行とは、道具の使い方や手順がうまく組み立てられなくなる状態です。
生活の中では、歯磨きが始められない・箸やスプーンが使いにくい・コップやくしの使い方で止まる・リモコンやスマホ充電で混乱する・手順が飛ぶ・順番が分からなくなるといった形で見られます。
背景には、道具の意味・使い方・手順の組み立ての難しさがあります。
支援では、使う道具を減らす・実物を見せる・手順を単純にする・置き場所を固定する・どこで止まるかを見ることが大切です。
本人を責めるのではなく、道具を使いやすい形に整えること。
それが、生活のしやすさにつながります。
まず一つだけやってみるなら、歯ブラシを毎朝同じ場所に、すぐ使える向きで置くことから始めてみてください。
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