【高次脳機能障害シリーズ】服がうまく着られない更衣失行
2026/06/21
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害23
服がうまく着られないのはなぜ?更衣失行をわかりやすく解説
はじめに

「シャツの前後が分からなくなった」
「袖をどこに通せばいいのか迷っている」
「ズボンを履こうとして、同じ穴に両足を入れてしまう」
「ボタンやファスナーのところで止まってしまう」
脳卒中などのあと、このような着替えの困りごとが出ることがあります。
ご家族から見ると、「服の着方を忘れたのかな」「認知症が進んだのかな」「何度も教えているのに、どうしてできないの?」と感じるかもしれません。
着替えは毎日行う生活動作です。
だからこそ、ここでつまずくと、ご本人もご家族も負担が大きくなります。
このような困りごとの背景に、更衣失行という高次脳機能障害が関係している場合があります。
この記事では、更衣失行について、生活場面をもとにわかりやすく解説します。
更衣失行とは?
更衣失行とは、服を着る動作がうまく組み立てられなくなる状態です。
服を着たり脱いだりする行為は、手足の力だけではなく、服の形を理解する・前後や裏表を判断する・身体との向きを合わせる・袖や足を通す順番を考える・ボタンやファスナーを操作するといった複数の難しい要素が必要になります。
着替えは、実はとても複雑な動作です。
普段は無意識に行っていますが、頭の中では
- 服はどんな形をしているか
- 自分の身体にどう合わせるか
- どこから腕を通すか
- 服をどの向きに持つか
- 自分の身体をどう動かすか
- 次に何をするか
を瞬時に組み立てています。
更衣失行では、この組み立てが難しくなります。
なお、ここで重要なのは、服の形や向きそのものが見えていないわけではないという点です。
見えているのに、その情報を動作の手順と結びつけることが難しくなっています。

服の前後や裏表が分からない
更衣失行では、服の前後や裏表が分かりにくくなることがあります。
たとえば、シャツを後ろ前に着ようとする、裏返しのまま着ようとする、襟やタグを見ても向きが分からない、上着の上下や左右で迷うといった様子です。
ご家族はつい「見れば分かるでしょ」と言いたくなるかもしれません。
しかし、ご本人の中では、服の形と自分の身体の向きがうまく結びついていない状態です。

袖やズボンの穴で混乱する
袖を通す時やズボンを履く時にも、困りごとが起こりやすくなります。
たとえば、片方の袖に両腕を入れようとする、袖を探し続ける、ズボンの同じ穴に両足を入れようとする、足をどちらから通すか分からなくなる、途中で服が絡まって動けなくなるといった場面です。
これは単なる不注意ではなく、服の構造と身体の動きを合わせることが難しくなっている状態です。
ボタンやファスナーで止まってしまう
ボタンやファスナーも、更衣失行ではつまずきやすい部分です。
- ボタンの位置が分からない
- 穴とボタンを合わせられない
- どこから留めればよいか分からない
- ファスナーの差し込みが難しい
- 途中で手順が止まる
このような場面では、手先の細かい動きだけでなく、順番や位置関係の理解も関係します。
もちろん、麻痺や手指の不器用さ・感覚障害が関係している場合もあるため、何が原因になっているのかを一緒に整理することが大切です。
急かすとさらに混乱します

着替えは、朝の忙しい時間帯に行うことが多い動作です。
そのため、ご家族はつい「早く着て」「違う、そっちじゃない」「何回も言ってるでしょ」と言いたくなってしまいます。
ただ、失行がある場合、急かされることでさらに混乱しやすくなります。
本人としては、やろうとしているのにうまくいかない。
そこに焦りや緊張が加わると、余計に動作が止まりやすくなります。
家族が忙しい中で大変なのは当然です。
だからこそ、声かけを増やすよりも、着替えがしやすい形に整えておくことが重要です。
家族ができる工夫
更衣失行がある場合は、着替えの手順をできるだけ分かりやすくすることが基本です。
着る順番に服を並べる
服を一式まとめて置くと、どれから着ればよいか分からなくなります。
下着、シャツ、ズボン、上着などを、着る順番に並べると分かりやすくなります。
服の種類を減らす
重ね着や複雑な服は混乱しやすくなります。
慣れるまでは、前後が分かりやすい服・ボタンが少ない服・伸びやすい素材・ファスナーが扱いやすい服・首元や袖が分かりやすい服を選ぶとよいでしょう。
声かけを短くする
一度にたくさん説明すると、かえって混乱します。
「右手を通しましょう」「次は左手です」のように、一つずつ短く伝える方が分かりやすいです。
必要以上に手を出しすぎない
できない場面を見ると、家族はすぐに手伝いたくなります。
もちろん安全のために介助が必要な場合もあります。
ただ、少し待つことで動作が続くこともあります。
どこで止まっているのかを見ながら、必要な部分だけ手伝うことが理想です。
ですが、一番大切なことは、主介護者であるご家族の負担になりすぎない程度に工夫することだと思います。
「服が着られない=認知症」とは限りません
服がうまく着られないと、「認知症が進んだのかな」と不安になるご家族もいます。
もちろん、認知症でも着替えが難しくなることがあります。
ただし、脳卒中などのあとに、手足は動いているのに服の着方だけが急に難しくなった場合、更衣失行が関係していることもあります。
また、麻痺・感覚障害・注意障害・半側空間無視などが重なっていることもあります。
そのため、生活場面だけで判断せず、リハビリ職などの専門職と一緒に原因を整理することが大切です。
まとめ
更衣失行とは、服を着る動作がうまく組み立てられなくなる状態です。
生活の中では、服の前後が分からない・袖を通す順番が分からない・ズボンの同じ穴に両足を入れてしまう・ボタンやファスナーで止まる・重ね着で混乱するといった形で見られます。
背景には、服の形・身体の向き・手順を組み立てる難しさがあります。本人を責めるのではなく、どうすれば着やすくなるかを一緒に考えることが大切です。
まず一つだけやってみるなら、明日の朝、服を着る順番に一枚ずつ並べて置いてみてください。
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