【高次脳機能障害シリーズ】記憶障害とは
2026/06/08
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害11
記憶障害とは?|「全部忘れる」だけではない記憶の困りごと
はじめに

「昨日の夕食は思い出せないのに、子どもの頃の話はよく覚えている」
「病院で説明を聞いたはずなのに、家に帰ると内容が抜けている」
「何度も同じことを聞かれて、家族も疲れてしまう」
高次脳機能障害の中でも、記憶障害はご本人にもご家族にも分かりにくく、生活の中で困りごとになりやすい症状の一つです。
記憶障害と聞くと、
「全部忘れてしまう」
「何も覚えていない」
「認知症なのでは?」
と思われることがあります。
しかし実際には、記憶障害の出方は人によって違います。
昔のことはよく覚えているのに、新しいことだけ覚えにくい方もいます。
出来事は覚えているけれど、名前だけ出てこない方もいます。
手順は覚えているのに、約束や予定を忘れてしまう方もいます。
つまり、記憶障害は「記憶が全部なくなる」という単純なものではありません。
この記事では、高次脳機能障害における記憶障害について、生活場面をもとにわかりやすく解説します。
記憶障害とは?
記憶障害とは、ものごとを覚える、思い出す、適切な場面で活用することが難しくなる状態です。
脳卒中、頭部外傷、脳炎、低酸素脳症など、脳に損傷が起きた後に見られることがあります。
ただし、症状の出方には個人差があります。
例えば、
- 新しいことを覚えにくい
- 同じ質問を繰り返す
- 予定を忘れる
- 約束を忘れる
- 病院で聞いた説明を思い出せない
- 発症前後の出来事が抜けている
- 名前や言葉が出にくい
など、生活の中でさまざまな形で現れます。
大切なのは、これらが「やる気がない」「怠けている」「家族を困らせようとしている」という話ではないということです。
ご本人自身も、うまく思い出せずに困っていることがあります。
疑似体験|メモ帳が保存されない感覚
記憶障害をイメージするために、パソコンやスマホのメモ帳を思い浮かべてみてください。
大切な予定を書いた。
買い物リストも入力した。
病院で言われたこともメモした。
でも、保存したつもりで画面を閉じたら、次に開いた時には消えている。
「書いたはずなのに残っていない」

前向性健忘などでは、このように“新しい記憶が保存されにくい”ような状態になることがあります。
もちろん実際の脳はパソコンとは違いますが、ご本人の生活では、
「聞いたはずなのに残っていない」
「覚えようとしたのに残らない」
という困りごとが起きていることがあります。
【Note】記憶は1つではありません
「記憶」と一言で言っても、実はいくつかの種類があります。
例えば、
- 出来事を覚える記憶
- 言葉や知識を覚える記憶
- 手順を覚える記憶
- 今聞いたことを少しの間保つ記憶
- これからやる予定を覚えておく記憶
などです。
専門的には、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶、ワーキングメモリ、展望記憶などと呼ばれます。
ただ、最初から用語を覚える必要はありません。
生活の中では、
「昔の思い出は覚えているのに、昨日のことは忘れる」
「料理の手順は分かるのに、今日の予定を忘れる」
「顔は分かるのに名前が出ない」
というように、記憶の種類によって困り方が変わることがあります。
昔のことは覚えているのに、昨日のことを忘れるのはなぜ?
ご家族が驚きやすいのが、
「昔のことはこんなに覚えているのに、なぜ昨日のことは忘れるの?」
という場面です。
これは珍しいことではありません。
すでに長い時間をかけて定着している昔の記憶と、最近聞いたばかりの新しい記憶では、脳の中での扱われ方が違います。
そのため、
- 子どもの頃の話はよく覚えている
- 昔の仕事の話はできる
- 若い頃の旅行は覚えている
- でも今日の朝食は忘れている
- 昨日の面会を忘れている
ということが起こる場合があります。
このような状態を見ると、ご家族は混乱します。
「都合のいいことだけ覚えているのでは?」
「本当は分かっているのでは?」
と感じてしまうこともあります。
しかし、記憶障害では、覚えていることと覚えられないことが混在することがあります。

認知症との違いについて
記憶障害があると、すぐに「認知症ではないか」と心配されることがあります。
確かに、認知症でも“記憶の困りごと”は見られます。
一方で、高次脳機能障害による記憶障害は、脳卒中や頭部外傷などの後に起こることもあり、経過や背景が異なる場合があります。
ただし、ここで大切なのは、
「認知症ではない」と断定することではありません。
高次脳機能障害による記憶障害の場合もありますし、認知症が関係している場合もあります。
また、年齢や病気の経過によって、両方の影響が重なることもあります。
気になる変化がある場合は、医師や専門職に相談することが大切です。
実生活で起こりやすい困りごと
記憶障害は、生活の中で次のような困りごとにつながります。
- 同じ質問を何度もする
- 予定を忘れる
- 薬を飲んだか分からなくなる
- 病院説明を覚えられない
- 買い物に行っても目的を忘れる
- 電話の内容を忘れる
- 家族が何度も説明することになり疲れる
ご本人も困りますが、ご家族も疲弊しやすい症状です。
特に、何度も同じ質問をされると、
「さっき言ったでしょ」
「何回説明すればいいの」
と言いたくなることがあります。
その気持ちも自然です。
記憶障害は、ご本人だけでなく家族も支援が必要になる症状なのです。

生活しやすくする工夫もあります
記憶障害がある場合でも、工夫によって生活しやすくなることがあります。
例えば、
- メモを決まった場所に置く
- カレンダーを見える場所に置く
- ホワイトボードで予定を共有する
- スマホのアラームを使う
- 写真を活用する
- 毎日の流れを固定する
- 家族が同じ言い方で説明する
などです。
大切なのは、便利そうな道具をたくさん使うことではありません。
“その人が続けられる方法”を選ぶことです。
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【内部リンク:記憶障害の方を支える工夫】
まとめ
記憶障害は、「全部忘れる」という単純な症状ではありません。
昔のことは覚えているのに、新しいことが覚えにくい。
予定は忘れるのに、昔の仕事の話はできる。
名前は出ないのに、出来事は覚えている。
このように、記憶の種類によって困り方が変わることがあります。
大切なのは、
- 記憶は1種類ではないこと
- 怠けや性格の問題ではないこと
- ご本人も困っていること
- 家族も疲弊しやすいこと
- 工夫で生活しやすくなること
を知ることです。
「困らせている人」ではなく、「困っている人」として見ること。
そこから、関わり方が少し変わるかもしれません。
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