【高次脳機能障害シリーズ】感覚性失語(ウェルニッケ失語)とは?
2026/05/15
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害5
ウェルニッケ失語(感覚性失語)とは?「話しているのに会話が噛み合わない」症状を解説
-失語症 感覚性失語編-
はじめに

「普通に話しているように見えるのに、なぜか会話が噛み合わない」
脳卒中のあと、そんな"違和感"に戸惑うご家族は少なくありません。
言葉はスラスラ出ている。返事も返ってくる。でも、なぜか話が通じない。
質問と違う返答になる。話題が途中で変わる。言葉は多いのに、内容が繋がらない。
そんな状態が続くと、ご家族も、
「聞いてないのかな?」「わざと適当に返事してる?」「認知症なの?」
と混乱してしまいます。
これが、ウェルニッケ失語(感覚性失語)の特徴のひとつです。
私が作業療法士として病棟で働いていた頃、ウェルニッケ失語は"ご本人よりも先にご家族が強く混乱する"場面がとても多い失語症でした。なぜなら、見た目には「普通に話せている」ように見えるからです。
今回は、そんなウェルニッケ失語について、
- どんな症状なのか
- なぜ会話が噛み合いにくくなるのか
- 実生活でどんな困りごとが起きるのか
- 家族はどう接すればいいのか
を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
まず、少し体験してみてください
今回も、説明の前にちょっとした体験から始めましょう。
次の文章を声に出して読んでみてください。
……意味がわかりますか?
「日本語っぽい音」は聞こえる。でも、意味がまったく繋がらない。
これが、ウェルニッケ失語のある方が日常の会話の中で経験している感覚に、少し近いかもしれません。
私たちにとって何気ない「ご飯食べる?」「今日は寒いね」という言葉が、本人には意味のつながらない音の連なりとして届いていることがあるのです。
前回のブローカ失語は「言いたいのに言葉が出ない」もどかしさでした。
今回のウェルニッケ失語は、それとはまったく異なる苦しさです。
ウェルニッケ失語(感覚性失語)とは
ウェルニッケ失語とは、"言葉を理解すること"が難しくなる失語症のひとつです。
「感覚性失語」とも呼ばれます。
脳卒中などによって、脳の側頭葉付近にある「ウェルニッケ野」と呼ばれる部分が損傷することで起こりやすいとされています。
前回ご紹介したブローカ失語は「話したいのに言葉が出ない」ことが中心でした。
こ
一方、ウェルニッケ失語では、
- 言葉は比較的スラスラ出る
- でも内容が繋がりにくい
- 相手の話を理解することが難しくなる
という特徴があります。
そのため"普通に話しているように見える"ことが多く、周囲が障害に気づきにくい失語症でもあります。
どんな症状がある?

流暢に話しているように見える
ウェルニッケ失語では、言葉数が多く、スムーズに話しているように見えます。そのため初めて接した方は「普通に会話できている」と感じることが多くあります。
ただ、よく聞いてみると内容が繋がりにくかったり、話題が飛んだり、言葉の使い方がずれていたりします。
病棟でも、「この方は失語症なんですか?」と驚かれることが何度もありました。パッと見ると、会話をしているように見えるのです。
質問と違う返答になることがある
たとえば、こんな会話です。
家族:「ご飯食べる?」
本人:「そうだねぇ、昨日のバスでしょ……えっと、青いから……、だから布団ね」
家族:「え?ご飯の話なんだけど……」
本人:「うん、新聞がね……」
返事は返ってくる。でも内容が噛み合わない。
これは"わざと無視している"わけではありません。
言葉の意味理解や整理が難しくなることで、会話の流れをうまくつかめなくなっているのです。
言い間違いが増える(錯語)
似た言葉に置き換わったり、存在しない言葉が混ざることがあります。
「時計」と言おうとして、別の意味の言葉である「写真」と言ってしまったり、
「とけい」と言おうとして「といけ」と言ってしまう
などといった形です。
ここで大切なのは、ご本人としては"普通に話しているつもり"である場合が多いということです。そのため、指摘されると混乱したり、怒ってしまうことがあります。
本人は「うまく会話できている」と感じていることがある
これが、ウェルニッケ失語を理解するうえで最も大切なポイントです。
ブローカ失語では「言えない」「出てこない」というもどかしさを本人が強く自覚します。
一方、ウェルニッケ失語では、うまく伝わっていないことに気づきにくい場合があります。
「ちゃんと会話しているのに、なぜ周りが困っているのかわからない」
「私の言っていることを全然理解してくれない」
と感じてしまう状態になるのです。
実際に、失語の後遺症のある方の在宅リハビリで、ご本人とご家族がこんなことを言っておられました。
ご本人:「ちゃんと話している。なぜ妻が私の言うことを聞かず、いじわるするんだ」
ご家族:「何を言いたいのかわからない。毎日こんな調子で疲れる」
この"見えないすれ違い"こそが、ウェルニッケ失語で最も苦しい部分かもしれません。
実生活で起こる困りごと

病院での説明が理解しづらい
病院では症状説明・検査説明・薬の説明など、多くの情報が一度に入ってきます。
ウェルニッケ失語では、その内容を整理することが難しくなります。
「説明を聞いている」ように見えても、実際には十分に理解できていないことがあります。
大切な説明が伝わっていないまま帰宅してしまうリスクもあるため、ご家族の同席と確認が重要になります。
電話で会話が成立しにくい
電話は表情もジェスチャーも見えません。
視覚情報を使った状況判断ができず、すべて"言葉だけ"でやり取りしなければならず、混乱しやすくなります。
聞き返しが増えたり話題がずれたりして、本人も相手も疲れてしまいます。
買い物で意思疎通しにくい
「これください」と伝えたいのに別の言葉が出たり、会話が噛み合わなくなることがあります。
周囲からは分かりにくいため、ご本人が深く傷ついていても気づかれないことがあります。
家族が疲弊してしまう
ウェルニッケ失語では、"会話が成立しにくい状態"が毎日続きます。
「何を言いたいのかわからない」「説明しても伝わらない」「会話するだけで疲れる」という状態になりやすく、ご家族も強い疲労感を抱えやすくなります。
これはご家族の努力不足ではありません。
"すれ違い続ける苦しさ"が積み重なっているのです。
そして忘れないでほしいのは、ご本人もまた、混乱の中にいるということです。
うまく伝わらない。なぜかわからない。
そのとまどいは、言葉にならない形で本人の中に積み重なっています。
家族も疲れている。本人も混乱している。
だからこそ「うまくいかなくて当然」という視点を持つことが、お互いを守るために大切です。
家族が誤解しやすいポイント
ウェルニッケ失語では「流暢に話している」「声も普通」「言葉数も多い」ため、障害が見えにくくなります。その結果、
「聞いてない」「適当に返事してる」「わざと話をそらしてる」
と誤解されることがあります。
でも実際には、"言葉の意味理解"に難しさが起きているのです。
ここを理解できるだけでも、関わり方は大きく変わります。
ブローカ失語との違い
同じ失語症でも、ブローカ失語とウェルニッケ失語はその特徴が大きく異なります。
| ブローカ失語 | ウェルニッケ失語 | |
|---|---|---|
| 話すこと | 難しい・言葉が出にくい | 流暢に話せることが多い |
| 言葉の量 | 少ない・単語中心 | 多い場合がある |
| 理解すること | 比較的保たれやすい | 難しくなることがある |
| 本人の自覚 | 強く感じやすい | 少ない場合が多い |
| 周囲の反応 | 「話せない」とわかりやすい | 「普通に話せている」ように見えやすい |
接し方のポイント
短く、ゆっくり、一つずつ
一度に多くの情報を伝えると整理が難しくなります。
短く・ゆっくり・一つずつを意識してください。
「今日は病院。午後2時。車で行く」
というように、シンプルに区切るだけでも伝わりやすくなります。
ジェスチャーや指差しを活用する
言葉だけに頼らず、指差し・写真・実物・ジェスチャーを組み合わせると伝わりやすくなります。
「ご飯食べる?」と言いながら茶碗を指さす、といった工夫が効果的です。
落ち着いた環境で話す
テレビの音や周囲の会話が多い場所では、さらに混乱しやすくなります。
静かな環境でゆっくり話すことも大切です。
「違う」と強く否定しない
言い間違いを強く否定したり、何度も訂正すると、本人が混乱したり怒ってしまうことがあります。
「あ、〇〇のことね」と自然に受け取り直してあげる方が、会話がスムーズになることが多いです。
「わざとではない」を忘れない
会話が噛み合わないと、家族側もつらくなります。
イライラしてしまうことも、決して珍しくありません。
でも、その背景には"言葉を理解する難しさ"があります。
伝わっていないことに、本人も混乱しています。
「わざとではないかもしれない」という視点があるだけでも、お互いの負担は少し変わってきます。
まとめ

ウェルニッケ失語(感覚性失語)は、
"話しているように見えても、言葉の理解や内容整理が難しくなる"失語症です。
そのため、会話が噛み合わない・話題がずれる・意図が伝わりにくい、という"すれ違い"が起こりやすくなります。
「ちゃんと話しているように見える」=「問題なく理解できている」ではありません。
ご本人も、ご家族も、戸惑いながら毎日を過ごしています。
だからこそ、
「わざとではないかもしれない」「理解の難しさがあるのかもしれない」
という視点を持つことが、支えになります。
外見だけでは分かりにくいため、周囲の理解がとても重要になる失語症でもあります。
在宅生活やご家族の関わり方に悩んでいる方は、ぜひルピネにもご相談ください。
作業療法士として多くの方と関わってきた経験から、一緒に考えさせていただきます。
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