【高次脳機能障害シリーズ】失読・失書とは
2026/05/16
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害6
失読・失書とは?「読めない・書けない」が起こる高次脳機能障害をわかりやすく解説
-文字によるコミュニケーション障害編-
はじめに

「文字は見えているのに、なぜか読めない」
「書こうとしているのに、漢字が出てこない」
脳卒中のあと、そんな変化に戸惑う方は少なくありません。
- スマホのLINEが読みにくい。
- 病院の説明書が頭に入らない。
- 名前を書こうとしても漢字が思い出せない。
周囲から見ると、
「見えているのに?」「手は動くのに?」「どうして読めないの?」
と不思議に感じることがあります。
これが、失読(しつどく)・失書(しっしょ)と呼ばれる高次脳機能障害のひとつです。
私が作業療法士として病棟や在宅で関わっていた頃も、
「スマホが急に使えなくなった」
「漢字だけ書けなくなった」
「書類が怖くなった」
と苦しむ方を多く見てきました。
今回は、そんな失読・失書について、
- どんな症状なのか
- なぜ「読めない・書けない」が起こるのか
- 実生活でどんな困りごとが起きるのか
- 家族はどう接すればいいのか
を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
まず、少し体験してみてください
次の文章を読んでみてください。
すぐ読めましたか?
では今度は、少し急いで何度も読んでみてください。
どうでしょうか。
文字は見えている。
読めているはずなのに、途中で混乱したり、意味が入りづらく感じませんでしたか?
じつは、この混乱に似たことが、失読の方には短い文章や単語でも起こることがあります。
「文字として見えているのに、意味として整理しづらい」という状態です。
また失書では、「書きたい内容は頭にあるのに、文字としてうまく書けない」ということが起こります。
前回までの失語症シリーズでは「話す」「聞く」というコミュニケーションの障害を扱ってきました。今回は「読む」「書く」という、"文字によるコミュニケーション"の障害についてのお話です。
失語症との違い
まず、失語症との違いを簡単に整理しておきましょう。
失語症は、"言葉そのもの"の障害です。
「話す」「聞く」などに影響が出ます。
一方、失読・失書は、"文字"の処理に関わる障害です。
「読む」「書く」ことに影響が出ます。
ただし実際には、失語症と失読・失書が同時に起こることも少なくありません。
それぞれの違いを知っておくことで、ご本人の困りごとをより正確に理解できるようになります。
失読・失書とは?
失読・失書とは、「読む」「書く」ことが難しくなる高次脳機能障害です。
脳卒中などによって、脳の文字処理に関わる部分が損傷すると起こることがあります。
ここで大切なのは、
- 「目が悪い」から読めない
- 「手が動かない」から書けない
という問題ではない、ということです。
失読では「文字は見えている、でも意味として整理しづらい」ということが起こります。
失書では「手は動く、でも文字としてうまく書けない」ということが起こります。
周囲からは病気として見られにくいため、
「なんでできないの?」
「さっきまで読めてたのに?」
と誤解されることも少なくありません。
失読とは? 文字は見えている
失読では、視力そのものに問題がない場合も多くあります。
つまり、"見えていない"のではなく、"文字として処理しにくい"という状態です。
たとえば、
- 一文字ずつなら読める
- ゆっくりなら理解できる
- 短い単語なら分かる
でも、
- 長文になると混乱する
- 意味が頭に入りづらい
- 読んでも内容が残らない
ということがあります。
LINEや字幕が読みにくい
最近はスマホを操作することで、症状に気づかれることも増えています。
LINEを開いても「文字を追うだけで疲れる」「内容が頭に入らない」「何度読んでも理解しづらい」ということがあります。
テレビの字幕も同じです。
流れていく文字を処理しきれず、「読もうとしているうちに次へ行ってしまう」という状態になりやすくなります。
病院説明や薬袋が難しくなる
病院では、説明書・同意書・薬袋・予約票など、"読む"場面が非常に多くあります。
でも失読があると「読んでいるのに意味が入らない」ということが起こります。
そのため
「説明を読んだはずなのに、内容がうまく整理できない」
「薬の飲み方を間違えてしまう」
という困りごとにつながることがあります。

失書とは? 漢字が出てこない
失書では「頭では分かっているのに、文字として書けない」ということが起こります。
特に多いのが「漢字が出てこない」という症状です。
たとえば「病院」「時計」「薬」など、普段なら書ける漢字が急に思い出せなくなることがあります。
名前や住所が書けない
書類を書く場面で困る方も少なくありません。
名前・住所・電話番号・サインなど、"当たり前にできていたこと"が急に難しくなることがあります。
ご本人としては「なんで書けないんだろう」「自分がおかしくなった」という強いショックを受けやすい部分です。
文章を組み立てにくい
一文字だけではなく、文章全体がうまく書けなくなることもあります。
メモを書こうとして途中で止まる、単語の順番が混乱する、文章をまとめられない、など日常生活に大きな影響が出ることがあります。

【Note】スマホ時代は気づかれやすい――でも以前は見逃されていた
以前は、「字を書く機会が減っていたため、気づかれにくかった」ケースもありました。
でも現在は、LINE・SNS・スマホ入力・ネット検索など、"文字を読む・書く"場面が非常に増えています。そのため「LINEが読めない」「文字入力が急に難しい」ことで、失読・失書に気づく方も増えています。
逆に言えば、スマホを使う機会が少ない方は、今でも気づかれにくいことがあります。
「なんとなくおかしい」と感じたら、専門家に相談することが大切です。
【Note】漢字だけ難しい?ひらがなが難しい?――文字によって困り方が違うこともある
失読・失書では、すべての文字が同じように苦手になるとは限りません。
たとえば、
- ひらがなは書けるのに漢字だけ思い出せない
- 漢字は読めるのにひらがなが読みにくい
- 名前は書けるのに文章になると難しい
など人によって症状の出方が異なることがあります。
これは、日本語が「漢字(意味を表す文字)」「ひらがな・カタカナ(音を表す文字)」という複数の仕組みを使っているためです。漢字を書くためには「意味」「形」「画数」など多くの情報を脳から引き出す必要があります。一方、ひらがなは「音」と文字を結びつける処理が中心です。
そのため、脳のどの部分に障害が起きたかによって症状に違いが出ることがあります。周囲からは「さっき書けたのに、なぜ今は書けないの?」と見えることもありますが、脳の中で行われる"文字処理"の仕組みが複雑に影響しているのです。
実生活で起こる困りごと
書類が怖くなる
病院や役所では、書類を書く場面がたくさんあります。
でも失書があると、「名前を書く」「住所を書く」だけでも強い負担になります。
「間違えたらどうしよう」「書けなかったら恥ずかしい」という不安から、書類そのものが怖くなってしまう方もいます。
買い物メモが作れない
買う物をメモしたいのに、漢字が出てこない、書こうとして止まる、途中で何を書いていたか分からなくなる、ということがあります。
家族とのLINEが負担になる
家族とのLINEも、読むのに時間がかかる、返信が難しい、誤解が増える、など負担になりやすくなります。
その結果「スマホを見るのが嫌になる」「返信しなくなる」という状態につながることもあります。
周囲から誤解されやすい
失読・失書は外から見えにくい障害です。
そのため「サボっている?」「ちゃんと読んでないだけ?」「ただの物忘れ?」と誤解されることがあります。
でも実際には、"脳の文字処理"に難しさが起きているのです。
接し方のポイント
急がせない
読んだり書いたりするのに、時間がかかることがあります。
途中で急かされると焦りが強くなり、さらに難しくなることがあります。
長い文章を避ける
情報量が多いと整理が難しくなります。短く・一つずつ・シンプルに、を意識すると伝わりやすくなります。
音声や指差しを活用する
文字だけに頼らず、音声・指差し・写真・実物を組み合わせることで、理解しやすくなることがあります。
一緒に確認する
薬袋や書類などは「一緒に読む」「一緒に確認する」だけでも安心感につながります。
「見えている=読める」ではない
ここはとても大切です。見えているように見えていても、文字の意味として処理することが難しい場合があります。
「できない」のではなく、「脳での処理が難しくなっている」という視点を持つことが、ご本人への大きな支えになります。
回復・改善の可能性について
失読・失書は、適切なリハビリや環境調整によって、日常生活の困りごとが少しずつ改善していくケースも多くあります。
たとえば、
- 一文字ずつゆっくり確認する練習を積み重ねることで、読める文章の量が増えていく
- ひらがなから練習を始めて、少しずつ漢字へ広げていく
- 音声入力やルビ(ふりがな)付きの資料など、環境を工夫して負担を減らしていく
といった取り組みが積み重なることで、日常生活への影響が変わっていくことがあります。
回復のペースや程度は人によって異なりますが、「変わらない」と諦めず、一緒に考え続けることが大切です。
まとめ

失読・失書は、"読む""書く"という文字によるコミュニケーションが難しくなる高次脳機能障害です。
- 文字は見えているのに読めない
- 手は動くのに書けない
という苦しさは、周囲から見えにくいことがあります。
だからこそ、
「怠けているわけではない」
「わざとではない」
という理解がとても大切です。
スマホ、LINE、薬袋、書類——。私たちの日常は、"文字"であふれています。その中で感じる混乱や不安は、ご本人にとって大きなストレスになります。
焦らず、一緒に確認しながら、「読めない」「書けない」の背景にある苦しさを理解していくこと。
そして、少しずつでも改善していける道を一緒に探していくこと。
それが、ご本人とご家族を支える第一歩になるかもしれません。
在宅生活やご家族の関わり方に悩んでいる方は、ぜひルピネにもご相談ください。
作業療法士として多くの方と関わってきた経験から、一緒に考えさせていただきます。
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