【高次脳機能障害シリーズ】運動性失語(ブローカ失語)とは
2026/05/10
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害4
【解説】ブローカ失語とは?「理解できるのに話せない」症状をわかりやすく解説 -失語症 運動性失語症編-
はじめに

「何か言いたそうなのに、言葉が出てこない」
脳卒中のあと、そんな変化に戸惑うご家族は少なくありません。
ちょっと想像してみてください。
言いたいことは頭の中にある。
「お茶が飲みたい」と思っている。
でも、口を開けると出てくるのは……
「あ……えっと……あれ………飲む……」
言葉が、出ない。
これが、ブローカ失語(運動性失語)の大きな特徴です。
※「ブローカー失語」と表記されることもあります。
私が作業療法士として病棟で働いていた頃、ブローカ失語のある方とたくさん関わらせていただきました。「伝えたいのに伝えられない」という苦しさを目の当たりにして、関わり方の大切さをとても強く感じた症例ばかりでした。
今回は、そんなブローカ失語について、
- どんな症状なのか
- 実生活でどんな困りごとが起きるのか
- 本人はどんな気持ちでいるのか
- 家族はどう接すればいいのか
を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
まず、少し体験してみてください
難しい説明の前に、ちょっとした実験をしてみましょう。
次の言葉を、声に出して言ってみてください。
「えーと……あの……なんだっけ……」
そして今度は、「りんご」という言葉を思い浮かべたまま、
「りんご」とは言わずに相手に伝えようとしてみてください。
……どうでしょうか。もどかしくないですか?
これは、ほんの数秒の体験です。
でも、ブローカ失語のある方は、これが毎日・毎回の会話で起こっています。
伝えたい気持ちはある。
頭の中に言葉はある。
でも出てこない。
この「もどかしさ」を少しでも感じてもらえたら、ブローカ失語をぐっと身近に理解できると思います。

ブローカ失語(運動性失語)とは
ブローカ失語とは、"話すこと"が難しくなる失語症の一つです。
「運動性失語」とも呼ばれます。
脳卒中などによって、脳の前の方にある「ブローカ野」と呼ばれる言葉を出力する部分が損傷することで起こりやすいとされています。
そして最も大切なポイントが、これです。
「話せない」=「理解できない」ではない
ブローカ失語の方は、相手の話を理解できていることも多くあります。
言いたい内容も頭の中にあります。
ただ、「言葉として出力すること」が難しくなるのです。
このことを理解しているかどうかで、関わり方がまったく変わってきます。
どんな症状がある?
言葉が出にくい
最も特徴的なのが「言いたいのに言葉が出ない」という症状です。
たとえば「コーヒー」と言いたいのに、
「あ……あの……飲む……」
と言葉を探して止まってしまう。
頭の中では言いたいことが分かっているため、本人は強いもどかしさを感じやすくなります。
私が関わっていた方の中にも、受傷後にリハビリを開始し始めた頃は「言葉がすぐ出ていた自分」と「今の自分」のギャップに深く傷つき、「おれ……おかしくなった」と辛そうな表情でうつむく方もいらっしゃいました。
単語中心になりやすい
長い文章を作ることが難しくなり、
「トイレ」「水」「病院」
など、単語だけの会話になることがあります。
本人は「もっと説明したい」「ちゃんと伝えたい」と思っている。
でも、文章としてまとめることができない。
家族側には「単語だけでは分からない」と伝わりにくいこともあり、お互いにストレスが積み重なりやすい部分です。
返答に時間がかかる
質問されてから返答まで、時間がかかることがあります。
これは理解していないのではなく、「言葉を探している」状態です。
急かされると焦り、さらに言葉が出にくくなるという悪循環が起こりやすくなります。
「早く言って」「どうしたいの?」と続けて聞かれると、頭の中が混乱してしまうことも少なくありません。
逆にとっさの出来事に対し、ふと正しい言葉がスムーズに言えることもあり、ご本人も自分でびっくりする場面もあります。
長い会話が難しい
短い返答はできても、出来事を説明したり、気持ちを整理して伝えたりするような長い会話が難しくなります。
「今日どこに行ったの?」「病院で何を言われたの?」と聞かれても、頭の中では分かっていても整理して話せない。
その結果、「会話が減った」「無口になった」ように見えることがあります。
でも、理解できていることも多い
ここは、ブローカ失語を理解するうえでとても重要なポイントです。
ブローカ失語の方は、話の内容を理解できる・テレビの内容が分かる・家族の会話を理解している場合も少なくありません。
「頭の中では分かっている」が「でも言葉にできない」という状態です。
だからこそ、ご本人の中では
「違う、そうじゃない」
「言いたいことがあるのに出ない」
という焦りや悔しさが常に起きています。
以前、私が関わっていた方が、リハビリの合間に
「……わかる。………(言葉が)でない。………くやひい(悔しい)。」という言葉でした。
あの悔しそうな表情は今でも忘れられません。
特に病院などで、本人の前で家族だけに説明が進んでしまう場面があります。
でも本人は、"理解しているのに参加できない"という苦しさを感じていることがあるのです。
実生活で起こる困りごと

病院で説明できない
「痛い場所」「症状」「困っていること」をうまく説明できず、本人が強いストレスを感じることがあります。
病院では「いつからですか?」「どんな症状ですか?」など、言葉で説明する場面が連続します。
周囲には「話してくれない」ように見えるかもしれません。
でも実際には、"伝えたいのに出ない"状態で苦しんでいることがあります。
電話が苦痛になる
電話は「表情が見えない」「聞き返しづらい」「返答を急かされやすい」という状況が重なるため、ブローカ失語の方にとって特に負担が大きい場面です。
言葉が出ずに固まってしまい、そのまま電話を切ってしまう方もいらっしゃいます。
その結果、「電話に出たくない」「人と話すのが怖い」という気持ちにつながることもあります。
お店で注文できない
飲食店などで「ラーメン」と言いたいだけなのに言葉が出ず、後ろに人が並んでいると焦ってしまう。
周囲には分かりにくいですが、本人の中では強いプレッシャーが生じています。
こうした経験が積み重なると、「外出したくない」「人前で話したくない」という気持ちにつながってしまいます。
焦るほど言葉が出にくくなる
ブローカ失語では「早く話さなきゃ」と思うほど、言葉が出にくくなる傾向があります。
急かされる・何度も聞き返される・周囲が先回りするという状況が重なると、さらに混乱が深まってしまいます。
「焦りが症状を悪化させる」
——これはリハビリの現場でも、とても気をつけていたポイントです。
本人が感じている苦しさ

ブローカ失語の方は「分からない」のではなく、"伝えられない"苦しさを抱えています。
- 言いたいことがあるのに出ない。
- 家族にうまく説明できない。
- 話す前から諦めてしまう。
- 会話が怖くなる。
「ちゃんと伝えたい」「分かってほしい」と思っている方ほど、もどかしさを感じやすくなります。
周囲には見えにくいですが、その積み重ねが自信を失わせ、人との会話を避け、笑うことが減る
——という変化につながることがあります。
勝手に話を進める、本人抜きで説明する、子ども扱いするといった関わりは、言葉では表現できないほど深く傷つけてしまうことがあります。
家族がやってしまいやすいこと
毎日会話がうまくいかないと、家族側も疲れてしまいます。
「何を言いたいの?」「早く言って」「もういいよ」
そう思ってしまうのは、決して珍しいことではありません。
介護をされているご家族がどれだけ大変かは、現場で関わってきた中でも強く感じてきました。
ただ、ブローカ失語では急かされるほど言葉が出にくくなるという特性があります。
また、先回りして全部代わりに話す・子ども扱いする・「ちゃんと話して」と言う、といった関わりは、本人の自信をじわじわと下げてしまいます。
家族も疲れている。
本人も苦しんでいる。
だからこそ、「うまくいかなくて当然」という視点を持つことも、お互いを守るために大切です。
「うまく伝えられなくても、伝えようとしてくれていること」
を受け取ろうとする姿勢が、大きな支えになります。
接し方のポイント
まずは待つ
返答まで時間がかかることがあります。途中で言葉を奪わず、少し待つことが大切です。
沈黙は「何も考えていない」のではなく、「言葉を懸命に探している」時間です。
短く、ゆっくり聞く
長い説明や複数の質問は、整理が難しくなります。一つずつ・短く・ゆっくりを意識すると伝わりやすくなります。
Yes / Noで答えられる形にする
「どうしたい?」よりも、「お茶にする?」「病院に行く?」など、Yes / Noで答えやすい形にすると負担が減ります。
ジェスチャーやメモを使う
言葉だけにこだわらず、指差し・メモ・ジェスチャー・写真などもコミュニケーションの手段になります。
「言葉だけにこだわらなくてもいい」という発想の転換が、生活の幅を広げることがあります。
「話せない」と「理解できない」を分けて考える
ブローカ失語では理解できている場合も多くあります。
だからこそ、「分かってない」と決めつけず、本人を会話の輪に入れることを意識してください。
まとめ
ブローカ失語(運動性失語)は、"理解できるのに話せない"ことがある失語症です。
本人の中には、
- 言いたいことがある。
- 伝えたい気持ちがある。
- 分かってほしい思いがある。
それでも、うまく言葉にできず苦しんでいます。
周囲からは見えにくい障害ですが、「話せない=理解していない」とは限りません。
焦らず、急かさず、"伝えようとしている気持ち"を受け取ろうとすること。
それだけでも、本人にとって大きな支えになります。
在宅での生活や、ご家族の関わり方に悩んでいる方は、ぜひルピネにもご相談ください。
作業療法士として多くの方と関わってきた経験から、一緒に考えさせていただきます。
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ルピネでは、医療・介護の視点を持つスタッフが、
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