【高次脳機能障害シリーズ】全失語とは
2026/05/18
【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害7
全失語とは?「言葉が出ない・伝わらない」言葉に閉じ込められる感覚!重度失語症をわかりやすく解説
-失語症 全失語編-
はじめに
「話しかけても返事がほとんどない」
「何を考えているのか分からない」
脳卒中のあと、そんな変化に戸惑うご家族は少なくありません。

全失語(ぜんしつご)は、失語症の中でも重度とされるタイプのひとつです。
話すことだけではなく、聞く・読む・書くといった"言葉によるコミュニケーション全体"に大きな影響が出ることがあります。
そのため、
「もう会話できないのでは…」
「何も分からなくなってしまったのでは…」
と強い不安を感じることがあります。
ですが実際には、表情・雰囲気・感情・視線やジェスチャーなどが残っている場合も多くあります。
私が作業療法士として関わっていた頃も、
「言葉は出ないけど、表情で気持ちが伝わる」
「好きな音楽を流すと涙を流す」
「家族が来ると安心した顔をする」
そんな場面を何度も見てきました。
今回は、全失語について、
- どんな症状なのか
- 本人はどんな苦しさを感じているのか
- 実生活でどんな困りごとが起きるのか
- 家族はどう接すればいいのか
を、できるだけ生活目線でわかりやすくお伝えしていきます。
全失語とは?
全失語とは、話す・聞く・読む・書くすべてに大きな障害が起こる重度の失語症です。
脳卒中などによって言語に関わる広い範囲が損傷すると起こることがあります。
- 言葉がほとんど出ない
- 相手の話の理解が難しい
- 文字も読みづらい
- 書くことも難しい
など、コミュニケーション全体に影響が出ます。
「完全に何も分からない」とは限らない
ということです。
外から見ると反応が少なく見えても、
- 声の雰囲気
- 表情
- 感情
- よく使う言葉
- 家族の存在
などを感じ取っている場合があります。
「反応が少ない=何も感じていない」ではありません。
「失語症全体について知りたい方はこちら」
どんな特徴がある?
言葉がほとんど出ない
全失語では、話そうとしても言葉がうまく出せなくなることがあります。
例えば、「あ…」「うー…」など短い音だけになったりします。
本人の中では「伝えたい」「言いたい」という気持ちがあるのに、言葉として形にできないのです。
理解も難しくなる
相手の話を理解することも難しくなる場合があります。
特に、長い説明・早口・複雑な話は整理しづらくなります。
ただし、名前・よく聞く言葉・表情・雰囲気などから理解できる部分が残っていることもあります。
読み書きも困難になる
全失語では、LINEのメッセージ・テレビの字幕・病院の説明文書など、日常的な文字の理解が難しくなることがあります。また、名前を書く・メモを書く・文字入力するといった操作も大きな負担になります。
ジェスチャー中心になることもある
言葉の代わりに、指差し・表情・手の動き・うなずきなどで伝えようとする方もいます。
そのため、"言葉だけ"で判断しないことがとても大切です。
【疑似体験】もし突然、知らない外国語の世界に入ったら?

少し想像してみてください。
もし突然、周囲の人たちが知らない外国語だけを話し始めたらどうでしょう。
何となく雰囲気は分かる。
でも、何を言っているのか、自分に何を求めているのかが細かく分からない。
しかも、自分も言いたいことをうまく伝えられない。
「助けて」「痛い」「違う」「分かってほしい」
そう思っても、言葉にならない。
全失語の方は、そんな不安や孤独を感じていることがあります。
"夢の中で声を出そうとしても出ない感覚"に近いと表現されることもあります。
周囲には伝わらない。
でも本人の中には、焦り・不安・悔しさ・孤独が残っていることが多いのです。
実生活で起こる困りごと
助けを呼べない
体調が悪くても、「苦しい」「痛い」「助けて」をうまく伝えられないことがあります。
「苦しい」と言いたいのに、言葉が出ない。でも周囲にはうまく伝わらない。
その不安や孤独は、想像以上に大きいものです。
痛みを説明できない
例えば、
- どこが痛いのか
- どれくらい痛いのか
- いつからなのか
を説明するのが難しくなることがあります。
そのため、周囲が表情や様子から気づくことも重要になります。
病院での意思疎通が難しくなる
病院では、質問に答える・説明を聞く・希望を伝えるといった場面が多くあります。
でも全失語では、そのやり取り自体が大きな負担になることがあります。
孤立感が強くなる
会話が減ることで「自分だけ取り残された」ような孤独感につながることがあります。
周囲が本人抜きで会話を進めてしまうと、さらに孤立感が強まることもあります。
本人はどんな気持ち?
全失語では、不安・焦り・悔しさ・孤独・無力感を感じる方が少なくありません。
特につらいのは、
「伝えたいのに伝えられない」
ことです。
本人の中には「分かってほしい」「気づいてほしい」という思いが残っている場合があります。
だからこそ、"反応が少ないから何も感じていない"と決めつけないことが大切です。
家族が感じやすいこと
ご家族も、とても苦しくなりやすい状況です。
「本当に理解しているの?」「どう接すればいい?」「何を考えているのか分からない」と悩む方は少なくありません。
一生懸命話しかけても反応が少ないと、「もう通じないのかもしれない」と落ち込んでしまうこともあります。
でも実際には、表情・視線・雰囲気・声の調子などから反応していることがあります。
"言葉だけ"がコミュニケーションではないことを、少しずつ理解していくことが大切です。
【Note】言葉以外のコミュニケーション
全失語では、言葉以外の手段が非常に重要になります。
- 目線
- 表情
- 手の動き
- 指差し
- 声のトーン
などで意思表示している場合があります。
「今日は疲れていそう」「安心している」「嫌がっている」など、こうした細かな反応に目を向けることで、本人の気持ちが少しずつ見えてくることもあります。
【Note】「無反応」に見えても…
外から見ると「反応がない」「分かっていない」ように見えることがあります。
でも実際には、理解しようと頑張っている途中の場合もあります。
言葉を処理するのに時間がかかるため、反応まで少し間が空くこともあります。
また、言葉を理解しようとするだけで、脳が大きく疲れてしまう場合もあります。
急かさず待つことで、表情や反応が返ってくることも少なくありません。
接し方のポイント

Yes/Noで答えられる質問にする
長い質問よりも
「痛い?」「お茶飲む?」「暑い?」
など、短くシンプルな質問の方が伝わりやすいことがあります。
一度に多く話さない
情報量が多いと整理が難しくなります。
短く、ゆっくり、一つずつ。
これが大切です。
写真や実物を活用する
言葉が難しくなっていても、周囲の様子や状況を感じ取れている場合があります(状況判断能力)
言葉だけではなく、
写真・実物・指差し・ジェスチャー
を組み合わせることで、理解しやすくなることがあります。
急がせない
返事まで時間がかかることがあります。
途中で急かされると、さらに混乱しやすくなります。
誰しも、急かされたことで焦ってケアレスミスをしてしまった経験があると思います。
"待つこと"も大切なコミュニケーションです。
表情や雰囲気を見る
言葉が少なくても、安心・不安・疲れ・嬉しさなどが表情に出ることがあります。
"話せる量"だけで、その人の気持ちを判断しないことが大切です。
回復・改善の可能性について
全失語は重度の失語症ですが、リハビリや環境調整によって変化していくこともあります。
- Yes/Noで意思表示しやすくなる
- よく使う言葉が出やすくなる
- ジェスチャーが増える
- 表情で気持ちを伝えやすくなる
など、少しずつコミュニケーション方法が広がる場合があります。
回復のペースは人それぞれです。
だからこそ、「言葉が少ない=終わり」ではなく、"どうすれば伝わりやすくなるか"を一緒に考え続けることが大切です。
まとめ
全失語は、話す・聞く・読む・書くすべてに大きな影響が出る重度の失語症です。
しかし、
「言葉が少ない=感情が消えた」ではありません。
伝えたい思い、分かってほしい気持ち、不安や孤独。
多くの場合、そうした内面が残っています。
だからこそ、
- 急がせない
- 表情を見る
- 一緒に確認する
- 言葉以外の反応を大切にする
ことが、とても重要になります。
「読めない」「書けない」「伝えられない」、その背景にある苦しさを理解しようとすること。
そして、言葉だけではなく、その人に合った"伝わる方法"を一緒に探していくこと。
それが、ご本人とご家族を支える第一歩になります。
"話せない人"としてではなく、"伝えづらさを抱えている人"として関わること。
それが、ご本人の安心につながります。
在宅生活やコミュニケーション支援に悩んでいる方は、ぜひルピネにもご相談ください。
作業療法士として多くの方と関わってきた経験から、一緒に考えさせていただきます。
通院や外出でお困りの方へ
ルピネでは、医療・介護の視点を持つスタッフが、
通院・外出・付き添い支援を行っています。
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そんな時は、お気軽にご相談ください。
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