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左側が“ない世界”?半側空間無視(方向性注意障害)とは|体験でわかる高次脳機能障害

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【高次脳機能障害シリーズ】半側空間無視(USN)とは

【高次脳機能障害シリーズ】半側空間無視(USN)とは

2026/05/06

【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害2

左側が“ない世界”?半側空間無視(方向性注意障害)とは
-方向性注意障害(半側空間無視)編-

はじめに

突然ですが、頭にメガネをさしたまま「メガネがない、メガネがない!」と探し回った経験はありませんか?

あるいは、「消しゴムがない!」と机の上を探し回っていたら、ずっと目の前にあった…なんてことも。

 

メガネを頭に差しているのに気づかない。

消しゴムが視界に入っているのに、見つけられない。

 

こんな「うっかり」は誰にでもあることですよね。私も日常茶飯事です(笑)

 

でも、これが毎日のあらゆる場面で、しかも「左側だけ」に起こり続けるとしたら、どうでしょうか。

 

今回のブログでは、高次脳機能障害の一つ「半側空間無視(方向性注意障害)」について、作業療法士として現場で経験してきたことを交えながらお伝えしていきます。

 

前回の「注意障害編」に続く第2弾です。まだ読まれていない方は、ぜひあわせてご覧ください。

【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害1

-注意障害編-

【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害【在宅介護】

-これから高次脳機能障害を知っていきたい方へ-

まず、体験してみましょう

難しい説明の前に、ちょっとだけ試してみてください。紙とペンを用意してください。

 

① 白紙に、適当な大きさで丸い円を描いてください。

② その中に、1から12の数字を書いて、時計の文字盤を作ってみてください。

 

……できましたか?

きっとバランスよく、円の中に数字が並んだと思います。

 

 

では、ある障害がある方に同じことをしてもらうとどうなるでしょうか。

 

 

数字がすべて右半分に集まっています。左半分はすっぽり空白のまま。

 

「左が見えていないの?」

そう思いますよね。でも、正確には違います。

 

左側は目に入っています。
それでも、「そこにある」と気づくことができないのです。

 

 

半側空間無視(方向性注意障害)とは

脳卒中など、脳にダメージを受けることで起こる後遺症の一つに「半側空間無視(USN:Unilateral Spatial Neglect)」があります。

これは、自分が意識しようとした空間のうち、左側の情報を認識しにくくなってしまう症状です。

多くは脳の右側(右半球)が傷ついたときに起こります。

 

ポイント:「目が見えない」のではない

 

半側空間無視は、視力や視野に問題があるわけではありません。

左側の情報は、目には入っています。

しかし、脳がその情報を「ある」「重要だ」と気づくことができないのです。

半側空間無視(方向性注意障害)とは

食事のとき

 

毎食、右側だけをきれいに食べて、左側のおかずにはまったく手をつけない方がいました。

「全部食べましたか?」と聞くと、「はい、全部食べました」とニコニコされる。

でも、お膳の左半分には手つかずのおかずがずらり。

ご本人の中では「全部食べた」という認識になっています。

ご本人には、左側が"ない"も同然の世界なのです。

 

 

車いすでの移動

 

廊下を車いすで移動するとき、なぜかいつも左の壁やドアにぶつかってしまいます。

ぶつかっても「ちゃんと見て動いている」とおっしゃる。

右側はしっかり確認できているのに、左側には気づけない。

そのため、「なぜぶつかったのか」がご本人にはわからないのです。

 

 

身だしなみ

 

着替えのとき、左袖を通し忘れたまま「着替え終わった」と思っていることがありました。

髭剃りやお化粧でも、右半分だけで終わってしまう。

鏡を見ながらでも、鏡の左半分が目に入らないのです。

 

 

重要:自覚がないことが多い

 

ここで最も大切なのは、ご本人に「欠けている」という自覚がないことがほとんどだということです。

左側を見落としていても、本人は「ちゃんとできている」と感じています。

そのため、「なんでこんな簡単なことが…」と周囲との認識のズレが生まれやすくなります。

なかには「車の運転もできる」とおっしゃる方もいました。
(症状の程度にもよりますが、半側空間無視のある方の運転は危険なことが多いです。)

そのため、「できていないこと」に気づくこと自体が難しいのです。

よくある誤解

半側空間無視はとても誤解されやすい症状です。

 

「目が見えていないんでしょ?」

 → いいえ。目は正常に機能しています。左側は目に入っていますが、気づけないのです。

 

「わざと無視しているのでは?」

 → そうではありません。本人の意志とはまったく関係なく起こります。

 

「注意力が低いだけでは?」

 → 脳の損傷による機能の変化です。「頑張れば気づける」ものではありません。

 

つまり、努力や気合いでどうにかなるものではないのです。

「なんで気づかないの!」と叱っても、ご本人には本当に気づく術がない。

これを理解することが、より良い関わり方への第一歩になります。

なぜそうなるの?しくみを解説します

少し専門的な話になりますが、できるだけわかりやすくお伝えしますね。

 

 

目からの情報は、左右「反対」の脳に届く

 

両目で見た映像のうち、右側の視野の情報は左の脳へ、左側の視野の情報は右の脳へ届きます。

そして右脳は、左右全体の空間バランスを把握する役割も担っています。

 

 

右脳が傷つくと、左側の情報がうまく届かなくなる

 

脳卒中などで右脳が傷つくと、左の視野から届くはずの情報がうまく処理されなくなります。

左側からの情報が、極端に少なくなる状態です。

 

 

脳は「強い刺激」の方向に引き寄せられる

 

ここで、ちょっと想像してみてください。

静かな図書館で本を読んでいるとき、突然「ドーンッ!!」と大きな音がしたら、思わずそちらを向きませんか?

これは生き物がより強い刺激のある方向に注意を向けやすいという、脳の性質によるものです。野生の動物が外敵の気配にすぐ気づけるのも、この性質のおかげですね。

右脳が傷ついて左からの刺激が少なくなると、相対的に右からの刺激が強くなります

脳は自然と「刺激が強い」右側ばかりに注意を向け、刺激の少ない左側を忘れてしまう。

これが半側空間無視の起こるしくみです。

 

 

「視野の左」だけでなく、「気づきの左」が失われる

 

さらに興味深いのは、これは単純な「視野の問題」ではないということです。

たとえば、目の前のお皿(右にあっても左にあっても関係なく)の中で、さらに左側のおかずが見落とされます。

「自分が注意を向けようとした対象の左半分」が常に抜け落ちてしまうのです。

だから時計を描かせると、円の左半分に数字が入らない、という現象が起きるわけですね。

リハビリと、関わる方へのワンポイント

 

まず「安全」を確保することが最優先

 

半側空間無視のある方は、左側の障害物や段差・階段に気づけないため、転倒やケガのリスクが高くなります。まず環境を整えることが大切です。

  • 左側の床や動線に危険なものを置かない
  • 車いすや歩行の際は左側をサポートできる人がそばにいる
  • 重要なものはまず右側(気づきやすい側)に配置する

 

 

「叱る」より「気づかせる」環境づくり

 

リハビリで大切にしていたのは、無理に「気づかせよう」としないことです。

「左に何かありますよ!」と急に言っても、ご本人にはなかなか伝わりにくい。

それよりも、右側から少しずつ左側へ視線を誘導する声かけをゆっくり積み重ねることが効果的です。

「右のおかずを食べたら、少し左も見てみましょうか」

「鏡の右半分が終わったら、今度は左もゆっくり見てみましょう」

そうすると「あれ?気づかなかったな…私は見落としていたのかな?」と感じるようになります。

こうして少しずつ「左側にも世界がある」「自分は左を見落としやすい」という気づきを積み重ねていくことが、リハビリの大きな目標の一つです。

 

 

ご家族の方へ

 

半側空間無視は「見えない障害」です。一見しては障害があることがわかりにくいからこそ、「なんで気づかないの?」とご家族の方がストレスを感じてしまうことも少なくありません。

でも、ご本人は精いっぱいやっています。むしろ右側をカバーしようと、脳は通常以上に頑張っている状態です。

「できていないこと」より「できていること」を声に出して伝えてあげることが、モチベーションにもつながります。

「右側がとてもきれいに食べられましたね」

そんな一言が、次の気づきへのきっかけになることもありました。

在宅での生活に不安を感じていたり、どう関われば良いか迷っておられるご家族の方がいれば、ぜひルピネにもご相談ください。作業療法士として多くの方と関わってきた経験から、一緒に考えさせていただきます。

「どう関わればいいか分からない」と感じたときは、それはとても自然なことです。

おわりに

半側空間無視(方向性注意障害)は、「見えていない」のではなく「気づけない」障害です。

 

そして、ご本人の努力不足でも、怠けているわけでもありません。

脳の変化によって起こる、れっきとした症状です。

 

だからこそ、周囲の方の理解と、少しの工夫が大きな助けになります。

 

このシリーズでは、高次脳機能障害を"体験と体感"を通してわかりやすくお伝えしています。

「なんとなく変だな」が「なるほど、そういうことか」に変わることで、関わり方も少しずつ変わっていく。そのきっかけになれたら、とても嬉しく思います。

 

次回も、日常生活でよく出会う高次脳機能障害の症状について、体験を交えてご紹介していきます。

【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害1

-注意障害編-

【解説】知識ゼロからの高次脳機能障害【在宅介護】

-これから高次脳機能障害を知っていきたい方へ-

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