【認知症】初期症状から対処法まで【在宅介護】
身近な方が「認知症かも」と感じている方
親御さんや家族が「認知症かも」と感じることはありませんか?
このようなあなたの不安や疑問にお答えします。
本記事の内容
- 認知症の初期症状がわかります
- 認知症の方が感じる気持ち
- よくある「こんなときどうする?」の対応方法
病院では、ご高齢で認知症のある方が入院されてくるケースも少なくありません。病院のスタッフはその方に合った方法を見つけ、工夫して医療を提供しています。
私自身も作業療法士として10年ほどリハビリを通して認知症の方と接してきていくつか学んだことがあります。
実際の経験した場面と合わせてお話していきます。
認知症の初期症状から対処法まで
私たちは普段の生活で、たびたび物忘れを経験しています。悲しいことに私自身、何かをしようと立ち上がったはいいものの、何をするために立ち上がったのか忘れてしまうことがしょっちゅうあります。
『加齢のせいだ』とか、『元々の性質かもしれない』とも考えられるため、実際はどんな症状が見られたら認知症を疑えばいいのか、そして病院に連れて行ったほうが良いのか、判断に困っている方も多いですよね。
物忘れと認知症の違い
多少の物忘れは誰にでもあることで、大抵は忘れていることを自覚でき、生活に大きな支障がないものです。そして多くの場合は「こういう事あったよね」というきっかけがあると「あーそうだった」と思い出せます。頭の中の引き出しに片付けた記憶を見つけられないような状態です。
一方認知症は、頭の中の引き出し自体が壊れて、記憶が頭からこぼれ落ちる状態といえます。出来事そのものが頭から完全に消えるため、毎回初耳のように振る舞うことが多いです。このようなことが頻繁に起こると日常生活に支障がでてしまいます。
早期発見
認知症は自覚しにくいため、周囲の人の気付きが早期発見の肝になります。早期発見・早期治療で進行を遅らせ、ご本人とご家族の負担が軽減できる可能性があります。また診断名がつき、生活に介助が必要な状況があれば、ケアマネージャーにも相談ができたり、介護サービスが使えるようになることで、介護する人にも余裕が生まれます。
早期発見のきっかけとなる症状は、認知症の種類によって様々ですが、次のような症状で気づかれる方が多いようです。
初期症状と日常生活での具体例
以下は生活上で多く見られる認知症の症状です。
記憶障害
最近の出来事が忘れやすくなります。実際には“忘れやすい”、“思い出せない”ではなく“覚えることができない”状態です。
- 同じ話を繰り返す/同じ質問を繰り返す
- さっきまで電話していた相手の名前を忘れる
- 約束の日時や場所をよく間違える
- 頻繁にごみを出し忘れる
- 同じ物を繰り返し買ってくる
- 新しいことが覚えられない
- 話のつじつまが合わない
- 財布や鍵などいろいろな物をなくしてしまい、探しものが増える
見当識障害
「いつ」「どこ」「だれ」を認識する能力が低下し、現在の季節や日時・今いる場所などがわからなくなり、自分が置かれている状況を総合的に判断できなくなります。
- 午前と午後を間違う/日時がわからなくなる
- 自分の家や車を間違う
- 近所の道でも迷ってしまう
理解力・判断速度・集中力・遂行機能の低下
物事を計画立てて進める機能が低下します。
- 片付けられなくなる
- ごみの分別ができなくなる
- 料理の手順を間違うことで味が今までと変化する
- 料理で火の消し忘れや鍋焦がしがある
- お買い物のおつり計算ができず、お札ばかり使って小銭が増える
- 赤信号を見落とすことが増える
- 車のこすり傷が増える
- 内容が理解できずテレビを見なくなる
- 周囲の会話速度についていけなくなる
- 好きだった趣味の読書や手芸などをやめてしまう
無気力・脱抑制による性格変化
脳の感情をコントロールする機能が低下するため、怒りやすくなったり逆に極端にやる気が出ない状態になり、周囲の人からは性格が変化したように見えます。
- 興奮しやすくなる/怒りっぽくなる
- 周囲を気にせずに頑固になる
- 下着を替えないなど、だらしなくなる
- 意欲が低下してぼーっとしている時間が増える
不安感の増大
認知症の初期では、自分で「最近なぜか失敗が増えたな」と自覚され不安を感じる方がいらっしゃいます。
- 1人でいることを怖がったり寂しがるようになる
- ご本人から「頭が変になった」と訴える
その他の症状
- 徘徊するようになる
- 自分の失敗を人のせいにする(被害妄想)
- 「財布を盗まれた」など、人を疑う(物盗られ妄想)
このような症状から認知症を疑い、早期発見できることが多いようです。
一見認知症の症状には思えないような、行動や性格の変化も実は認知症の症状だったということも多いのです。また、認知症だからといって「なにもわからなくなった」「なに言ってもどうせわからない」というわけではありません。
認知症の方ご本人の気持ち
認知症の症状の原因は、脳の委縮(細胞が壊れて脳が縮むこと)により、考えたり記憶したり感情を制御することが困難になることで起こります。その症状に加えて、次のようなストレスも感じることになります。
傷つく自尊心
脳の機能低下により失敗が増えることでご本人が強い不安を感じたり、失敗を周囲の人から指摘されることで自尊心が傷ついたりします。みなさんが親御さん、ご家族の変化を受け入れられないように、もしかするとそれ以上にご本人にとってもこの現実は受け入れがたいものです。
不安や混乱を感じる
「これまでと何かが違う」と、漠然した不安や混乱を感じていることが多く、ご本人にとってこのような状況はとてもつらいものでしょう。前述したとおり、特に症状が進むと認知症であることの自覚が難しくなってきます。認知症の自覚がないまま、ご自宅だと理解できず違和感を覚えたり、ご家族の認識も曖昧になることで「なにかおかしい」と不安になる場合もあります。
認めたくない心とうまくいかない現実
認知症の初期段階では、今までのように上手にできないことを自覚できることがあります。そしてそれは誰だって認めたくないものですよね。
認知症の方によく見られる “お金の計算ができないから、1万円札などの大きなお金で支払う” とか “うまく着替えができないから、入浴を嫌がる” などは失敗体験から逃げる防衛手段といえます。
失敗しそうな場面から回避する行動や言動だけでなく、笑ってごまかしたり、顔つきが変わるほど激怒するなどの行動も、必死で自分の自尊心を守ろうとしている結果です。
自分に置き換えて考えた時に、なんとなく「その気持ちわかるなあ」と思っていただけるでしょうか。
そのため自尊心を傷つけないような関わり方が、認知症の方と上手に関わる秘訣と言えます。
こんな時どうする?
認知症の疑いがある人が病院に行きたがらないときは?
認知症になったとしても、自尊心からそれを認めたくない気持ちになるのは当たり前です。たとえ、早期発見が重要だとしても、病院の受診は拒否するケースも少なくありません。受診する病院の『精神科』・『認知症外来』という名称にも抵抗を感じる方が多いようですし、認知症の検査を受けることもプライドが傷つくでしょう。
私の祖母も脳神経科への受診をとても拒んでいました。祖母の場合は孫である私が軽い感じで「ちょっとからだの調子悪いんでしょ?健康診断にいってみよう」と、認知症のイメージが少ない『心療内科』へ誘い受診することができました。身近な相手よりは少し離れた立場の人からの誘いや、認知症の受診を連想させないような工夫で応じてもらえることがあります。
また地域の保健所では、認知症を含んだ介護生活に関する相談窓口を設けているところもあります。専門家からのアドバイスは助けになるでしょう。
何か怒ってるんだけど、どうしてほしいのかわからない
認知症の方と関わっていると、いきなり怒り始めることもよくあります。
これも私の母と祖母とのやり取りです。
部屋中の物をひっくり返して探している認知症の祖母に、母が「何してるのッ⁉」と訊ねたら「あんたのせいでしょ!!」と怒鳴られる。
その原因は記憶障害によるものかもしれません。記憶障害は認知症の中核症状のひとつで、ご本人の努力での改善は困難です。しかし記憶障害だけで怒ることがあるでしょうか。
認知症は脳の機能が低下しますが、その方の考え方や思考の癖などが大きく変わるわけではありません。怒るということは、ご本人にとって不快な何かがあったはずです。その “何か” を探してみましょう。
今度は「どうしたの?なにか探しもの?」と聞いてみてください。
「お金がないの。あんた盗ったでしょ!」と返ってきます。
祖母は、認知症によって自分で置いたお金をよく無くしていました。あったはずのお金が消えたという自覚があるので、今度は保管場所を変えるようになりました。しかしまた保管した場所を忘れます。次はもっとわかりにくい “ベッドの下” や “畳んだ服の間” などに隠すようになります。当然隠し場所は忘れてしまうのでその後も見つけられません。本人からすると「あるはずのお金がない。誰かに盗られた」と考えるのは自然ですよね。外から泥棒が入ってきた形跡がなければ、次に疑うのは身近な人間、それもごく当たり前の思考パターンですよね。
さて私の祖母の場合は、記憶障害により “隠した場所を忘れてしまう” ということは中核症状なのでどうしようもありません。しかも私たち家族もどこに隠したのか検討もつきません。でも、この場合はお金がなくなったことに怒っているのですから、お金が出てくれば安心して納得してもらえますよね。
このように対応次第で変化する症状を、中核症状に対して行動・心理症状といいます。
「一緒に探すよ」と言って、予め用意しておいた千円札を数枚取り出し、「あったよ」と言うだけで落ち着いてくれ、行動・心理症状は軽減します。消えたお金は家の中のどこかにはあるので、いつかは回収できるのでご安心ください。
認知症の方の対応は介護のプロじゃなくてもいいのです。認知症のことは深くは知らないけど、むしろその方のことは一番よく知っているのではないでしょうか。認知症状の原因とその方の性格を合わせて考えてみてください。ご本人が何をしてほしいのかが隠れていて、認知症により引き起こされる行動・心理症状を落ち着かせることができることも多いです。
おわりに
何度も同じことを訊いてこられると、つい強く言い返したくなりますよね。とてもわかります。
しかし、介護する方と同じようにご本人も不安と恐怖と孤独を感じています。怒ったり否定されると自尊心が傷つき、行動・心理症状がより強まります。
私の場合は、もし認知症の方が間違ったことを言っても、そのままで問題ない些細なことであれば「そうですね」と寄り添うようにしています。中核症状は軽減できなくても、認知症の方が感じている不快な「何か」を解決して行動・心理症状が軽減できるかもしれないからです。
今回のブログで1つでも参考にしていただけることがあれば嬉しいです。
【認知症】ご家族が感じるイライラの原因と対処法【在宅介護】もぜひご覧ください。